フリーランスエンジニアの直接契約で手数料はどう変わる?

フリーランスエンジニアが直接契約に切り替えたいけれど、仲介手数料の分はどうなるのか、いまの紹介先と直接結んで問題にならないか、契約書に何を書けばいいのか、未払いのとき誰に相談するのか――こうした疑問を抱える方は多いのではないでしょうか。
本記事では契約構造の違い、手数料と引き換えに移るコスト、切り替え前に読む契約条項を整理しました。フリーランス法が発注者に課す義務と相談窓口も、条文と公的データで扱います。
フリーランスエンジニアの直接契約とは|間接契約との違い

エージェント経由と何が変わるのかを、契約構造・契約類型・常駐時の3点で整理します。
エージェント経由(間接契約)と契約構造がどう変わるか
エージェント経由の案件では、契約書が2本に分かれています。クライアントとエージェントの契約、エージェントとエンジニアの契約です。直接契約はこれが1本になります。
| 項目 | エージェント経由(間接契約) | 直接契約 |
|---|---|---|
| 契約の本数 | 2本(クライアント⇔エージェント、エージェント⇔エンジニア) | 1本(クライアント⇔エンジニア) |
| 報酬の流れ | クライアント→エージェント→エンジニア | クライアント→エンジニア |
| 条件交渉の相手 | エージェントの営業担当 | 発注先の担当者 |
| 営業・与信・請求 | エージェントが実施 | 自分で実施 |
準委任契約と請負契約のどちらで結ぶか
業務委託契約は、民法上の類型として準委任と請負に分かれます。
| 類型 | 契約の目的 | 成果物の完成義務 | 主な適用場面 |
|---|---|---|---|
| 準委任 | 業務の遂行そのもの | なし | 常駐・稼働時間精算型の開発支援 |
| 請負 | 仕事の完成 | あり(契約不適合責任) | 納品物が明確な受託開発 |
常駐する直接契約で問われるのは「労働者性」
「直接契約で常駐すると偽装請負になる」という説明は正確ではありません。37号告示(昭和61年労働省告示第37号)が前提にするのは、発注者・請負事業主・その労働者の3者関係です。
従業員を雇わない一人のフリーランスには、そのまま当てはまりません。
厚生労働省のフリーランスと労働者性も、この判断要素を基準に置いています。
直接契約で仲介手数料はなくなる|移る4つの負担

手数料が発生しない代わりに、エージェントが担っていた費用と手間が自分に移ります。
仲介手数料の相場は一次情報で確認できない
エージェントの仲介手数料は「10〜20%」と書かれることが多く、出典は示されていません。分配率を公式に開示しているのはPE-BANKだけです。
| 報酬受取回数 | エンジニアの取り分 | PE-BANKの取り分 |
|---|---|---|
| 1〜12回 | 85% | 15% |
| 13〜24回 | 86% | 14% |
| 25〜36回 | 87% | 13% |
| 37〜48回 | 88% | 12% |
| 49〜60回 | 89% | 11% |
| 61回〜 | 90% | 10% |
支払サイトは法定60日まで伸びる場合がある
フリーランス法4条が定める支払期日の上限は、給付を受領した日から60日です。条文は「できる限り短い期間内」とも定めています。
切り替えの初期は、次の入金までの生活費と経費を確保しておく必要があります。
与信確認・賠償責任保険・労災は自分で手当てする
取引先の実在確認、賠償リスク、労災の備えもエージェントが担っていた部分です。直接契約では自分で用意します。
フリーランス白書2026では、労災保険の認知度42.7%に対して加入は10.4%にとどまっています。
切り替え前に確認する契約条項|競業避止と直接契約の禁止

いまの紹介先と直接結べるかは、自分が署名した書面の中身で決まります。
エージェント契約・クラウドソーシング規約のどこを読むか
切り替えの可否を左右するのは、エージェントとの基本契約と、案件を取ってきたプラットフォームの規約です。確認する条項は次の4つに絞れます。
公正取引委員会などのフリーランスガイドラインは、合理的に必要な範囲を超えた競業避止義務を優越的地位の濫用の例に挙げています。
SESの引き抜き禁止条項は企業間で結ばれた約束
SES契約の引き抜き禁止条項は、原則としてSES企業とクライアント企業の間で結ばれるB2B条項です。エンジニア本人は、その契約の当事者ではありません。
本人が当事者でなくても、企業間で問題になれば常駐先との関係に影響する場合があります。手元の契約書に条項が見当たらない場合は、口頭の合意や覚書が残っていないかも確認します。
フリーランス法で守られる範囲と未払い時の相談窓口

直接契約の相手が事業者であれば、フリーランス法が発注者側に義務を課します。
取引条件の明示8項目と支払期日60日以内
フリーランス法3条は、業務委託をしたら直ちに取引条件を明示するよう発注事業者に義務づけています。方法は書面か電磁的方法です。取引期間の長さに関係なく、すべての発注事業者にかかります。
| 条文 | 内容 | 適用の条件 |
|---|---|---|
| 3条 | 取引条件の明示8項目 | すべての発注事業者 |
| 4条 | 支払期日は受領日から60日以内かつできる限り短い期間 | 従業員を使う発注事業者(期間の定めなし) |
| 5条 | 7つの禁止行為(受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直し) | 業務委託期間1か月以上 |
| 13条 | 育児介護等への配慮 | 6か月以上の継続的業務委託 |
| 16条 | 中途解除・不更新の30日前予告 | 6か月以上の継続的業務委託 |
勧告18件で繰り返されている違反
公正取引委員会は、法違反に対する勧告を事業者名つきで公表しています。勧告一覧によると、施行後の勧告は令和7年度10件と令和8年度8件の計18件です(2026年7月31日時点)。
直接契約を始めるときに最初に見るのは、契約書に8項目がそろっているかと、支払期日が日付で書かれているかの2点です。
フリーランス法の対象外と取適法が重なる場合
フリーランス法は、すべての直接契約に同じようにかかるわけではありません。相手の規模によっては、別の法律が重なる場合もあります。
| ケース | 扱い |
|---|---|
| 発注者が消費者(個人) | 対象外 |
| 受注側が従業員(週20時間以上かつ31日以上の雇用見込み)を使う | 特定受託事業者に当たらず対象外 |
| 発注者が従業員を使わない個人事業主 | 3条の明示義務のみ |
取適法は資本金基準に加えて従業員基準でも適用されます。情報成果物作成委託・役務提供委託では、従業員100人超が対象です。
報酬が支払われないときの相談窓口
契約の相手が事業者なら、支払いが止まったときの相談先として公的な窓口があります。連合の2024年調査では、フリーランスの46.6%が仕事上のトラブルを経験しています。
支払期日を過ぎても入金がない場合は、契約書と発注時のやり取りを手元に揃えてから相談します。
直接契約の案件を取る経路|白書データで見る内訳

案件をどこで取るかを、白書のデータと直接契約向けのサービスから整理します。
収入になった経路は人脈と既存取引先で6割超
フリーランス白書2025は「最も収入が得られた仕事獲得経路」を調査しています。人脈35.6%、過去・現在の取引先29.9%、エージェントサービスの利用12.4%です。上位2つだけで6割を超えます。
| 経路 | どんな案件が来るか | 難易度 | 自分でやること |
|---|---|---|---|
| 人脈・知人の紹介(35.6%) | 実績を知る相手からの継続案件 | 低 | 条件交渉、契約書作成、請求 |
| 過去・現在の取引先(29.9%) | 一度納品した領域の追加・保守 | 低 | 契約条項の確認、条件交渉 |
| エージェント経由(12.4%・間接契約) | 常駐・準委任の中長期案件 | 低 | 面談対応(営業・請求は代行) |
| 企業への直接営業・SNS・勉強会 | 単発から始まることが多い | 高 | 開拓、実績提示、与信確認 |
| 直接契約支援プラットフォーム | 企業が自社で直接募集する案件 | 中 | 応募、条件交渉、契約書作成 |
企業が直接募集する支援プラットフォーム
エージェントを介さず、企業が自社で募集を出す形のプラットフォームもあります。
SES向けの営業支援SaaSを開発している立場から、企業が直接募集を出す仕組みとしてQasicaテックを用意しています。案件は導入企業が求人を公開してから載るため、掲載はこれからです。
Qasicaテックは、AppTimeが運営するエンジニア向けの案件サイトです。無料の会員登録はこちら。
また、企業側の機能については、Qasicaとは?SES営業に特化した6つの機能と料金もぜひお読みください。
契約書と請求で処理すること|源泉徴収とインボイス

契約書の作成と請求まわりは、切り替えた人が自分で処理する部分です。
契約書は公的なひな型から作れる
契約書をゼロから作る必要はありません。フリーランスガイドラインの別添に、契約書のひな型と使用例が載っています。都道府県労働局のサイトではWord版も配布されています。
ひな型をベースにして、案件ごとに業務範囲と権利帰属だけを書き換える形で運用できます。
源泉徴収の要否とインボイス経過措置の変更
報酬から源泉徴収されるかは、業務の内容で決まります。システム開発やプログラム作成の報酬は原則として源泉徴収の対象外です。所得税法204条1項の列挙に含まれないためです。
| 報酬の種類 | 源泉徴収 | 根拠 |
|---|---|---|
| システム開発・プログラム作成 | 原則として対象外 | 所得税法204条1項に列挙なし |
| デザイン(画面デザイン等) | 対象 | 所得税基本通達204-6 |
インボイスの登録は義務ではなく、免税事業者のまま直接契約することもできます。ただし控除割合の引き下げが、報酬の交渉条件に影響する可能性があります。
まとめ|直接契約は手数料が消え、4つの負担が移る
最後にこの記事の内容をまとめます。切り替えを検討する場合は、まず署名済みの契約書で競業避止条項を確認することをおすすめします。契約書は公的なひな型から用意し、支払いが止まったときは無料の相談窓口を使います。
本記事は2026年8月時点の情報です。制度・料金は変わるため、最新は公正取引委員会のフリーランス法特設サイトを確認してください。
AppTime株式会社 代表取締役:システム開発・DX支援|2018年〜現在
HOJOJO株式会社 取締役CTO:技術戦略・プロダクト開発|2024年〜2025年
関西学院大学大学院(MBA課程)にて、経営管理の高度な知見を統合。
〜主な経歴〜
2017年に個人事業主として独立。エンジニアとして数多くのシステム開発を
手掛けた後、2018年にAppTime株式会社を設立し、代表取締役に就任。
現在は自社の経営のみならず、2024年〜2025年にはHOJOJO株式会社の取締役CTO(最高技術責任者)も兼任。技術の「便利さ」だけでなく、LLM・機械学習をはじめとする先端技術を活かし、企業のコストカットや「利益創出」に直結させるという、実益重視のコンサルティングを展開している。
単なるIT導入に留まらない、経営層・役員の意思決定に資する「経営×IT」の架け橋として、次世代のDXリテラシー向上を支援している。
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