SES単価の還元率、その計算は合ってる?公的データで検算

SESの単価から還元率を計算したいけれど、自分の客先請求単価が分からない、会社が言う「還元率75%」をどう検算すればいいのか、そもそも平均は何%なのか――こうした疑問を抱える方は多いのではないでしょうか。
本記事では計算の手順、単価が分からないときの逆算、公的データでの相場確認、会社の提示とズレる原因を、法令と統計をもとに整理しました。
SES単価の還元率の計算方法|計算式と分子の3つの定義

還元率は分子に何を入れるかで数字が異なります。
還元率の計算式と分子の3つの定義
還元率は、客先への請求単価のうちエンジニア本人に渡る割合です。式そのものは単純ですが、業界共通の定義がありません。
| 分子の定義 | 分子に含めるもの | 分子の金額 | 還元率 |
|---|---|---|---|
| ① 額面給与のみ | 月給の額面 | 36.0万円 | 60.0% |
| ② ①+社会保険の会社負担 | 額面+会社が払う保険料(36万×15.7%=約5.65万円) | 約41.65万円 | 約69.4% |
| ③ ②+諸経費 | 交通費・待機期間の給与・福利厚生(例:交通費1万円) | 約42.65万円 | 約71.1% |
自分の数字で出す3ステップ
自分の数字で計算するなら、分母を税抜の月額単価に揃えるところから始めます。手順は3つに分かれます。
- STEP 1
分母を決める
契約書や営業から聞いた月額単価を、税抜に揃えます。税込の金額しか分からない場合は1.1で割ります。
- STEP 2
分子を決める
額面給与のみ(定義①)、額面+社会保険の会社負担(定義②)、そこに交通費や待機期間の給与を足した全額(定義③)のどれで出すかを先に決めます。
- STEP 3
3つの定義すべてで出す
1つの定義だけで満足せず、①〜③を並べます。定義②は額面に1.157を掛け、定義③はそこへ交通費などの実額を足します。
| 月額単価(税抜) | 還元率50% | 還元率60% | 還元率70% | 還元率80% |
|---|---|---|---|---|
| 60万円 | 30.0万円 | 36.0万円 | 42.0万円 | 48.0万円 |
| 70万円 | 35.0万円 | 42.0万円 | 49.0万円 | 56.0万円 |
| 80万円 | 40.0万円 | 48.0万円 | 56.0万円 | 64.0万円 |
単価が分からないときの還元率の逆算方法

単価を教えてもらえない場合の逆算と、会社に聞くときの法的な整理を分けて扱います。
逆算の手順|月給と公的水準から単価を推定する
単価が不明なら、分子を定義①(額面給与のみ)に固定し、月給を仮の還元率で割り戻します。仮に置く率を複数用意すると、単価の推定幅が見えます。
- 月給35万円 ÷ 還元率50% = 単価70万円(税抜)
- 月給35万円 ÷ 還元率60% = 単価 約58万円(税抜)
- 月給35万円 ÷ 還元率70% = 単価50万円(税抜)
- 厚生労働省「労働者派遣事業報告書」(令和5年度)の情報処理・通信技術者は、月20営業日換算で単価 約60.7万円(税抜)・賃金 約40.9万円
公的水準の約60.7万円から大きく外れる推定になったときは、仮に置いた還元率か商流の見立てのどちらかがズレています。
会社に単価を聞いていい?開示義務の法的な整理
単価やマージン率について、SES(準委任)には開示義務がありません。労働者派遣法23条5項の情報提供義務は派遣元事業主が名宛人で、準委任契約には及ばないためです。
| 制度 | 開示の対象 | SES正社員への適用 |
|---|---|---|
| 労働者派遣法23条5項 | 派遣元のマージン率等(令和3年4月からネット開示が原則) | 適用外(準委任のため) |
| 労基法15条・労基則5条 | 労働条件の明示事項。顧客への請求単価は項目にない | 適用されるが単価は対象外 |
| フリーランス新法(2024年11月1日施行) | 3条で本人が受け取る報酬額等を明示 | 正社員は対象外。エンド単価・マージン率も対象外 |
開示しない会社が違法なわけではありません。聞くこと自体は自由なので、評価面談や契約更新など条件を話す場面で聞いてみましょう。
SES還元率の平均・相場を公的データで確認する
SESそのものの平均や相場を示す公的統計は存在しません。検証できる数字としては厚生労働省「労働者派遣事業報告書」(令和5年度)だけです。
情報処理・通信技術者は8時間あたりの派遣料金33,387円(消費税込み)・賃金20,430円と報告されています。
| 計算の定義 | 還元率 | 計算 |
|---|---|---|
| 公表値のまま(税込単価で割る) | 61.2% | 20,430 ÷ 33,387 |
| 分母を税抜単価に直す | 67.3% | 20,430 ÷ 30,352(33,387 ÷ 1.1) |
| 分子に社会保険の会社負担(15.7%)を足す | 77.9% | 20,430 × 1.157 ÷ 30,352 |
| 参考:全業務平均(全職種)を公表値のまま計算 | 63.9% | 16,190 ÷ 25,337 |
還元率の計算が会社の提示とズレる3つの原因

自分の計算と会社の提示が合わないとき、原因の多くは分母と期間の取り方にあります。
消費税|税込単価で割ると還元率が約1割低く出る
SESの契約単価は税抜表示が慣行です。給与に消費税はかからないため、分子は常に税抜相当の金額になります。
単価を確認するときは、その金額が税抜か税込かもあわせて確認します。
精算幅|稼働が下振れした月は分母が縮む
SESの単価は「140〜180時間」のような基準時間とセットで決まります。この精算幅を外れた分は、超過なら加算、不足なら控除されます。
| 精算方式 | 超過単価(月額60万円の場合) | 控除単価(同) |
|---|---|---|
| 上下割(140〜180時間) | 3,333円/時(60万 ÷ 180) | 4,286円/時(60万 ÷ 140) |
| 中央値割(160時間) | 3,750円/時(60万 ÷ 160) | 3,750円/時(60万 ÷ 160) |
| 月額固定 | 精算なし | 精算なし |
賞与|月額ベースと年収ベースで数字が変わる
賞与のある会社を月額給与だけで計算すると、還元率は低めに出ます。年収ベースなら「年収 ÷(月額単価 × 12)」で揃えられます。
- 前提:月額単価はどちらも60万円(税抜)
- A社(賞与あり):月給36万円+賞与年60万円 → 月額ベース60.0%、年収ベース68.3%(492万 ÷ 720万)
- B社(賞与なし):月給42万円 → 月額ベース70.0%、年収ベース70.0%(504万 ÷ 720万)
- 月額ベースでは10ポイント差でも、年収ベースでは1.7ポイント差まで縮む
賞与のない高還元SESと比べるなら、両社とも年収ベースに揃えて計算します。
SES単価のマージンの内訳と還元率の上限

還元率の上限は、会社側が抱える固定費で決まります。
社会保険の会社負担・待機・有給が占める下限
エンジニアを雇用している以上、給与とは別に会社が払う費用が発生します。全国健康保険協会などが公表する2026年度(令和8年度)の料率で会社負担分を積み上げると、次のようになります。
| 保険・拠出金 | 料率 | 会社負担分 | 月給36万円での月額 |
|---|---|---|---|
| 健康保険(協会けんぽ全国平均) | 9.9%(2026年度に0.1ポイント引き下げ) | 4.95% | 17,820円 |
| 介護保険(40歳以上のみ) | 1.62% | 0.81% | 2,916円 |
| 厚生年金 | 18.3% | 9.15% | 32,940円 |
| 雇用保険(一般の事業) | 13.5/1000 | 0.85% | 3,060円 |
| 子ども・子育て支援金(2026年度から徴収開始) | 0.23% | 0.115% | 414円 |
| 子ども・子育て拠出金 | 0.36% | 0.36%(全額が会社負担) | 1,296円 |
| 労災保険(情報サービス業の該当区分) | 2.5〜3.0/1000 | 0.25〜0.3%(全額が会社負担) | 900〜1,080円 |
健康保険料率は都道府県で差があるため、会社負担の合計は約15〜16%(40歳以上は約16.5%)です。月給36万円なら、40歳未満で月5.6万円前後・年約68万円が給与とは別に出ていきます。
残りのマージンは何に使われるのか
これらの法定分と稼働していない期間の原資がある以上、還元率が100%になることはありません。残りは現場に出ていない人員も含めた運営費に充てられます。
- 営業担当の人件費と、稼働決定までの活動費
- 採用費(求人媒体・エージェント手数料)
- バックオフィス(労務・経理・法務)の人件費
- 教育・資格支援・福利厚生
- オフィス、社内システム、営業利益
多重下請けの代金決定には規制が入りましたが、個人の還元率を直接動かす制度ではありません。マージンの大小そのものより、何にいくら使っているかを会社が説明できるかどうかで判断しましょう。
また、SES企業が営業にかけているコストと支援ツールについては、SES営業のAIマッチングツールの選び方と料金相場で解説していますのでぜひお読みください。
SES単価の還元率に関するよくある質問
還元率の計算で出てくる疑問を、法令と統計で確認できる範囲で整理しました。
❓よくある質問
Q.還元率60%は低いのでしょうか?
定義を揃えないと判定できません。厚生労働省の派遣統計を同じ条件で計算すると、税込単価で割って61.2%、税抜単価で割って67.3%です。額面給与を税抜単価で割って60%なら、この代理指標より低い位置になります。
Q.派遣のマージン率とSESの還元率は同じものですか?
別物です。派遣のマージン率は労働者派遣法23条5項で情報提供が義務づけられた指標で、令和3年4月からインターネット開示が原則になっています。SESの還元率は業界の通称で、法令上の定義も開示義務もありません。
Q.待機期間の給与はどこから出ていますか?
稼働中に生じたマージンが原資です。使用者の責に帰すべき休業には、労働基準法26条で平均賃金の60%以上の休業手当が必要と定められています。正社員には満額を支給する運用も多くあります。
Q.単価60万円なら手取りはいくらになりますか?
単価からは一意に決まりません。還元率と分子の定義で額面が決まり、そこから所得税・住民税・社会保険料の本人負担分を引いた金額が手取りになります。額面の水準は早見表で確認できます。
まとめ|SES単価の還元率は定義を揃えて計算する
最後にこの記事の内容をまとめます。
給与明細と契約更新時の条件を手元に置き、税抜単価・基準時間・賞与の有無を確認したうえで3つの定義で計算します。高還元SESの提示を比べるときも、同じ定義に揃えて並べます。
本記事は2026年8月時点の情報です。社会保険料率や制度は年度ごとに変わるため、最新の数値は厚生労働省・全国健康保険協会の公表資料で確認してください。
AppTime株式会社 代表取締役:システム開発・DX支援|2018年〜現在
HOJOJO株式会社 取締役CTO:技術戦略・プロダクト開発|2024年〜2025年
関西学院大学大学院(MBA課程)にて、経営管理の高度な知見を統合。
〜主な経歴〜
2017年に個人事業主として独立。エンジニアとして数多くのシステム開発を
手掛けた後、2018年にAppTime株式会社を設立し、代表取締役に就任。
現在は自社の経営のみならず、2024年〜2025年にはHOJOJO株式会社の取締役CTO(最高技術責任者)も兼任。技術の「便利さ」だけでなく、LLM・機械学習をはじめとする先端技術を活かし、企業のコストカットや「利益創出」に直結させるという、実益重視のコンサルティングを展開している。
単なるIT導入に留まらない、経営層・役員の意思決定に資する「経営×IT」の架け橋として、次世代のDXリテラシー向上を支援している。
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